経済価値と文化的価値のギャップを埋められたら。アート市場の革新を目指す起業家 原麻由美 (後編)

 

アーティストの発想が持つ面白さをビジネス・システムが受けとめられれば未来は変えられる

長く愛される価値あるブランドをつくる・育てることにこだわり続けてきた原麻由美さん。「いいブランドとは」と問いを立てる中で出会ったのが、伝統文化やアートの世代を超えて残りつづける価値のあり方です。その後、彼女はアートやアーティストの持つ魅力や能力と、自身が手がけてきたビジネスを組み合わせることに可能性を見出しました。インタビュー後編では、原さんの、新しい挑戦を伝えます。

ブランドとアーティストのマネジメントを一手に引き受ける

フレームダブルオーは、いままでに自分がやってきたことを全てまとめて、一生飽きないことをやる会社にしたいと思いました。事業は大きく2軸あり、ブランドマネジメントとアーティストのアートマネジメントです。ブランドのマネジメントはブランド戦略を定めてより価値を高めるために一通りのことをする仕事でして、アートマネジメントとしては、いろんなアーティストが活動を続けられるようにプロモーションや制作活動の支援をしています。

——すごく面白いところまでいったな、と。

2014年から1年間ブランクをつくり、アーティストや伝統文化の方々とお会いしていたんですが、彼らの情熱はものすごいんですね。アーティストが自分の作品を通じて、自分らしい生き方を確立しようとしていることに、すごく動かされてしまって。私が起業を通じて働いて生きようとすることとの共感を覚えたんです。かつ、彼らの作品にはすごく熱量があるので、自分がやってきたブランドを良くする仕事と、アーティストの活動支援をなんとかつなげる仕事ができないかなと。ブランドとアーティストのコラボレーションを通じて、ブランドの価値を高める作品をつくり、アーティストにとっても活動の継続につながる仕組みができたらと思っています。

——ブランドとアーティストの双方に起こる変化を、それぞれに信じた結果、こうしたか立体的なビジネスモデルになっているんだろうなと思います。

初めて起業したソーシャルメディア界隈では、情報が溢れすぎていて、画像も記事も覚えてもらえなくなっています。いくらお洒落な写真を撮ったところで、どうしても似てしまうという課題が起き始めているんですね。そうした流れの中で、先進的なブランドはアーティストとのコラボレーションを始めています。アーティストにコミッションワークを依頼して、他ブランドとの差別化ができたり、記憶に残る何かをつくれるのが、ブランドがアーティストと関わる利点です。

——アーティスト側にはどんな利点が?

アーティスト側のニーズはシンプルで、作品を世に広めて多くの人に見てもらい、認めてもらいたいと考えていて、儲けたい人はあまりいません。ですから、多くの人に見てもらいたいアーティストとブランドを、個性が合う形できちんとコネクションできれば、互いの価値向上につながるのではと思っています。

コミッションワーク

狭義には行政や企業がアーティストに制作依頼してパブリックな空間に設置する作品を指す。フレームダブルオーでは、設置場所や表現方法は問わず、アーティストの発想の自由を担保しながら企業などと作品を協働制作を目指している。

アーティストと企業の関わりを、ブランドのコンセプトメイクや、
アーティスト・イン・レジデンスとして試作する

——いま、どんな実験が始まりつつありますか?

FRAME00(フレームダブルオー)というアート・プラットフォーム形成のためのメディアをつくりました。まずはこのメディアに参加してもらえるアーティストを集めています。協力アーティストはいま、世界中に400人ほど、作品数は1万点まできています。同時に、アーティスト・イン・レジデンスという、アーティストに給料を支払いながら好きな作品を制作してもらうプログラムで、スリアン・スーセイというアーティストを社員として雇っています。

スリアン・スーセイ

インターネットを拠点に活動する新世代のアーティスト。デジタル領域における芸術表現を得意とし、これまでに手掛けたグラフィックは1000作品を超える。独創的なコンセプトが人気を博し、News Week, Forbes, Wiredなど世界中の雑誌のカバービジュアルを飾る。
http://frame00.com/artist/surian-soosay

レジデンス・アーティストは彼ひとりですが、基本は好きな作品をつくってもらっています。今年の4月にGIFを勉強したいと相談してくれたので、いいよと伝えたところ、2ヶ月ぐらいでこれだけ上達しました。

また、アーティストはコンセプトデザインが得意みたいで、ブランドのコンセプトデザインの仕事を振るようにしています。日本でいまこういうブランドがあって、こういう商品でねと伝えた上で、ブランドを表現するのにふさわしい言葉を考えてもらうなど、仕事を振りながら好きな作品をつくってもらっています。

——アーティスト・イン・レジデンスは普通の会社だったら、「この金を何に使うんだ」と疑問がだされるようなプログラムなんですが、こうしたアート・プラットフォームをつくっている会社として、すごく面白いチャレンジだと思っています。

アーティストとディスカッションできるのが一番いいですね。アーティストはビジネスの上では出てこない発想をするので、ブランドマネジメントの仕事の上でもありがたいです。ブランドが独自に考えられないことを未来図にして提示し、ブランドの期待を超えられたらとても喜ばれますし、新しい事業をつくる上でも貴重です。レジデンスアーティストは、リモートで働いているのですが、個性も考え方も文化も違い、視点が違う自由な発想をしてくれます。それに、わかりやすいところでは、いつのまにかFRAME00のロゴで遊んでくれていたりと、知らない間に作品がたくさん出来上がっています(笑)。

アーティスト・イン・レジデンス

行政やアートNPOがアーティストを招聘して、一定期間地域に滞在してもらいながら作品制作を行わせる事業。招聘されたアーティストはレジデンス・アーティストと呼ばれる。作品の製作に対しては、大幅な自由度が許容されることが多い。

近年は企業にも取り組みが広がり、Facebookや、マネックスグループ株式会社でも導入されている。

——会社としてアーティストの採用の基準はありますか?

FRAM00のビジョンに共感してくれて、作品に強い個性があるかですね。つくり続けるって重要で、若手では作品のテイストがバラバラになってしまっていて、個性が見えづらい方がいます。いろんなジャンルをつくっている分にはいいのですが。まずは継続する情熱があるかどうかと、コミニケーションしやすいか。スリアンはオンライン上にフリーで作品をアップしていたアーティストですが、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを活用していたので、世界中のメディアに彼の作品が掲載されています。世界中で実績があるアーティストが関わってくれているのは、楽しいですね。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)とはインターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのツール。(クリエイティブ・コモンズJAPAN公式web https://creativecommons.jp/ より)

きちんと世に出る作品をつくるために予算をみる。
アーティストの価値をビジネスの中に置き直す。

——ブランド側はアーティストと仕事をするのは初めてという人がほとんどでは?

実はブランドとアーティストの距離が結構遠くて。私の考えではどちらのニーズも抑えているし、早い段階で実現できると思っていたのですが、日本の企業さんの場合、「アートちょっとわかんないんだよね」という人が多くて。

——そこにどうやってアーティストをもぐりこませているの?

ちょこっとずつやっています。コンセプトワークとかから。

——アーティスト側がビジネスマンの考え方もわかってきたりとか、そういう反応は?

正直、ビジネスのことはわからない方々ばかりで。アーティストを本業にしている方はほとんどいなくて、学校の先生やアルバイトをして生計を立てている方々ばかりです。そういう方々に「好きにつくってくださいね」と言って、ブランドの仕事をお願いすると、それだけでみなさん、「夢が叶った」と。「アートで生きていくのは私にとっての夢で、もう諦めかけていたけれど、それを実現してくれてありがとう」と言ってくれていました。

——絵をやっている人には見てくれるだけで本当にありがたいんですよね。家族を題材にした作品など、思い入れがあって売りたくない作品もありますし。

いまの話がすごくいいなと思ったのは、FRAME00で掲載している作品ってデジタルデータなんです。デジタルサイネージの会社と提携していて、お店やフィットネスジムに作品のデジタルデータをコンテンツとして提供しているんですね。物理的な作品をアーティストが持ちながらも、提携先のお店で作品が公開される仕組みをとっています。

——マッチングしてビジネスにまでしてしまうのが面白いですね。ただ、原さんの中には、ある程度のスケールに達するまでやらないというのがあるのでは。いい若手のアーティストが関わりやすい予算規模はどう考えますか?

最低1千万のクリエイティブ予算をとってもらっています。きちんとコンセプトデザインから入ると、それくらいもらわなければできないですね。アーティスト側は期待をしてくれる方が多くて、「いくらでもいいから早くやりたい」と言ってくれる方が多いんです。「5万円でも10万円でも」と言ってくれますが、それくらいであれば私の会社でお願いできるレベル。小さい作品をつくって欲しいわけではなくて、本当に世の中に出てもらうための作品をつくってもらうために、1千万円規模感でみています。もっとアーティストの付加価値を乗せていきたいと思っていて、それは来年ぐらいには本格的にできるかなと。

試作のその先へ。だれかの心を動かし続けるブランドや作品を
アーティストと共につくる

——いまフレームダブルオーは前年比で7倍に成長しているそうで、はっきりとしたイメージがなければ、そういう成長にならない気がしています。

毎年必死に頑張っているので(笑)。アートのプラットフォームに関しては正直、自分でもイメージできていないです。FRAME00の「00」は、無限大を意味していて、自分も想像がつかないプラットフォームにしたいなと思っていて。

——文化的価値という言葉がありましたが、その目標をどう計るか?と聞かれたら、原さんだったら、どう答えますか?

もしかしたらNPOの考え方に似ているかもしれませんが、動く金額ではなく、作品を見て心を動かされる人がどれだけいるかだと思います。今年は100人かもしれないし、来年は150人かもしれない。心を動かされる人が居続けることが実現できたらと。

——これから作品の質を問われる領域に足を踏み入れられるのではと思いますが、アートの世界に対してのアプローチをどのように考えていますか?

私自身はアートのバックグラウンドがない人間なので、難しいなと思っています。いまアートのプロフェッショナルを採用していて、まもなく入社するのですが、その方にいわゆるアート業界の方々に向けて「FRAME00としてどういう表現をしていったら伝わるだろう」という部分で協力してもらおうとしています。いまの段階で具体的になにができるかはわからないのですが。プロのアーティストさんたちにも伝わるような表現をつくっていきたい。もしかしたら、いまとは全く違う姿になるのかもしれないです。

——生きることと作品をつくり続けることが同居しているアーティストの人生の先に、どんな未来を生み出したいと思いますか。

平たい言葉にはなってしまうんですが、やりたいことを我慢しないでも良い人生ですね。アーティストとして生きることが夢ではないですか。その夢をどこかで妥協するとかではなくて、金銭的な不安をなくして、作家活動を続けられるような状態をつくりだしたい。それをひとりではなくて、できる限り人数を増やしていくことができたらなと思います。

後記
公開トークでは、ビジネスにおける原さんの手腕に感嘆の声が漏れ聞こえたとともに、多くのアーティストが抱える経済的な難しさを踏まえた期待の声が次々と上がりました。フレームダブルオーでは、アートプロジェクトの主催も構想しているそう。アートの本質が社会の中で新たに発揮される世界が、これからどう引き寄せられていくのか、原さんの今後にも注目していきたいと思います。

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  1. 経済価値と文化的価値のギャップを埋められたら。アート市場の革新を目指す起業家 原麻由美(前編)

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