リーダーのさらなる成長に向き合うには?ファシリテーター山本泉に学ぶ(後編)

 

「気づきの空間」をつくることから。

―泉さんは、iLEAPなどのリーダーシップ・プログラムを通して、リーダーたちの葛藤や苦悩と向き合ってきたわけですが、具体的にトレーニングをどうデザインしているんですか。

順をたどると空間づくりからだと思っています。

ファシリテーターの表情や声のトーンはもちろんだけど、天井が高くて解放感があったり、あたたかなしつらえが用意されていたり、日差しを浴びられたり、風のそよぎが感じられたり…、近くに自然があったりするのもいいですね。

あくまで、変化させるのではなく、変化が起きやすい環境を整えるところから。リーダーたちが心地いいと感じられる空間、ここでだったら心を開けると感じられる空間をつくっていくことは、変化を促すことにつながりま す。

iLEAP

より良い社会の変化は一人一人の内面の変化とともに生まれるという信念のもと、世界中のソーシャル・リーダーや若者に対して、リーダーシップのトレーニング・プログラムを提供しているNPO法人。アメリカ・シアトルを拠点とする。

―「気づきを与える」「教える」ではなく、本人が「自ずから気づく」空間をつくるんですね。あくまで、リーダー目線で考え抜くというか。

ときには介入することも大事だけれど、待つことはもっと大事だなって思うんです。あれもこれもと詰め込み過ぎてしまっているプログラムも多いですよね。その人が内省できる静かな時間をどう入れていくか。まわりのやりたいことではなく自分が本当にやりたいことを考えたり、自分が感じていることをゆっくりと咀嚼したり、そういう風に自分自身とつながることが大事だと思っています。自分自身につながってこそ、自分を応援してくれる広い外部のリソースとつながることができるのですから。

外部のリソース

リーダーシップ・トレーニングの目標は、自己開発に留まらないことも多い。リーダーである限りにおいて、外部のリソースと出会い、それを率いていくことは使命の一つだが、潜在的なリソースの全てがリーダーの視野に納まっているわけではない。先進的なプログラムでは、未知のリソースとの出会いと自己開発を併走させることも少なくない。

―最初の話に出たような、「傷つきを抱えた」リーダーに対しても、内側を見ていく時間が重要になってくるんでしょうか?

自分自身も完璧なんてありえないし、人は完全じゃない。ネガティブな気持ちってなくなるものじゃないと捉えています。そこもちゃんと見つめて、受け入れていくかどうかは大事ですよね。

ショックなことに出会ったときや、うまくいかない状況になったときの反応には、いくつかパターンがあるんですよ。戦うか、逃げるか、凍りつくか、媚びるか、だいたいこのパターンに分かれる。

自分がどういった反応を取りやすいか内省してみると、何が引き金になって強い感情が生まれたか、それが過去の傷にどう繋がっているのか、そういった自分の感情やパターンにも気づきやすくなります。

そうやって、自分自身の内面を少しずつ統合していくことは重要ですよね。そうして、リーダーが自分自身への向き合い方を変えていけば、組織への向き合い方を変えることにもつながります。

リーダーの葛藤と組織の葛藤の接続性

リーダーの心理状態が組織に反映されることは多い。特に金銭的な動機付けを基軸としない非営利組織ではその傾向が顕著だ。


バラバラな変化ではなく、統合的な変化のために、日々の小さなパーソナル・プラクティスを持つこと

―内省の時間の重要性は理解できる一方、待つことって難しいですよね。人の内面でどういう変化が起こっているかは見えづらいものだし、「こういう応援や寄り添い方でいいのだろうか」という不安からサポートが過多になってしまうこともありそうですが。

トレーニング・プログラムはもちろん重要ですが、プログラムってある意味では非日常なわけです。その場だけでリーダーが変わることを、どこまで期待するかは本当に難しいですね。

こちら側でやれることをやった上で、あとはともに学んでいく、待つ、サポート側も変化していくだけ。

あとは、変化の土壌づくり。変化を続けていく上で、それぞれのリーダーがどういったパーソナル・プラクティス(意識を自己の内面や今の瞬時に向ける技法)を手に入れて行くか。そういったデザインを考えています。

パーソナル・プラクティスは難しいことではなくて、本当に小さなことからでいいと思うんです。

もちろん、料理や運動でもいい。ヨガや瞑想もあり。48日続ければ、習慣になると言われています。小さなことでもいいから、今の自分と、本来の自分の魂との繋がりを整えていくような 「儀式」(ritual)を、生活の中に持つことが大切だなと思います。

自分が変われば、プラクティスも変わる。プラクティスが変われば、自分も変わる

―リーダーはもちろんですが、リーダーをサポートする側も、こういった習慣を持つことは重要ですね。周囲に対してオープンでいることができたり、自己一致につながったりするように思います。パーソナル・プラクティスの経験がない場合、まずは何から始めてみるのがいいですか。

まずは、自分にとっての気持ちいいを探すこと。これをしているときは、オープンでいられるとか、気が静まるとか、そういうことね。そういうものを探してみる。

そして、それをやりやすくする空間をつくること。変化には、そのためのスペースを見つけることも大切なんです。そうしたら、あとは続けて、習慣にしていく。これがもっとも大切。英語でプラクティスとは技法(名詞)と、練習する(動詞)という両方の意味があります。

続けるには、何より、朝、目を覚まして伸びをして、ベッドから足を降ろす、この行為に象徴されることが大事。この瞬間、最高に眠くて辛いけど、何も考えずにただ足を下ろしてプラクティスを始める。これが習慣にするための鍵。これをしばらく続ければ、プラクティス自体が自然と自分に起こるようになります。

美をとりいれる、ということも意識しながらね。個人的に美しさって、変化や習慣にはなくてはならないものです。

やっていくうちに、もっと深くやりたいと思ったら、その道に身を捧げた人に師事して、より深い訓練をすることをお勧めします。

―パーソナル・プラクティスをやる上でコツみたいなものってあるのですか?

同じことを永遠に継続していくというよりは、更新を続けていくことが大切かもしれませんね。自分が変わると、今までやっていたことが合わなくなる時が来ると思うんです。

自分が進化すると、プラクティスも進化する。プラクティスがより深まったから、自分が変わっていくこともある。その繰り返し。

プログラムという非日常的な機会に加え、こういったパーソナル・プラクティスを日常で行うことが、自分自身の変容を深めつづける鍵だと思います。あとは、色々ごちゃごちゃと考えすぎずに、ただ日々続けるだけ。格好良くするとか、人に見せるとか、そういうものじゃない。無心に、静かに、淡々と続けていくことですね。

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​田村真菜​

​田村真菜​

作家・セラピスト。​1988年、東京・池袋生まれ。国際基督教大学(ICU)教養学部卒。ニュース編集者、NPO勤務や起業を経て、2017年「家出ファミリー」(晶文社)で作家デビュー。またセラピストとしても活動し、病気や障害、暴力、性被害など、さまざまな困難に向き合う人たちの話を聴いている​。​

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