「何かしてあげないと」が、結果的に力を奪っているかもしれない

 

対談:JEN木山啓子×soar工藤瑞穂(前編)

左から、木山啓子(JEN)と工藤瑞穂(soar)

人を助けるってどういうことでしょうか?
社会的マイノリティのためのウェブメディア「soar」を立ち上げた工藤瑞穂と、NGOの草分けの一人として各国の支援に携わってきたJENの木山啓子。
支援の現場にいるふたりの対談から、そのヒントが少しずつ浮かび上がってきました。

―まずは、soarのことを聞かせてもらえますか?

工藤

きっかけは、身近なひとが精神を患ってしまったことなんです。仕事をがんばりすぎてうつ病になって、そこからどんどんひどくなって統合失調症になってしまったんです。それ以来、LGBTや発達障害にも興味を持ち始めたんですけど、友人たちに話を聞いてみると、同じ立場の人たちの情報を知りたいんだけど、どこでもらえるかわからないっていう人がすごく多かったんです。

「障害があってどうやったら働けるのかがわからない」とか、「身近な人にうつになったときに、どうやって助けたらいいのかわからない」とか。子どもが難病や障害を持ってる親御さんだったら、「将来この子が本当に働けるのか」「自分が死んだあとにこの子はどうなるか」だったり。

だから、soarというウェブメディアを立ち上げたんです。すべての人たちの可能性が広がっていく、そういう活動を紹介していきたくて。

工藤瑞穂

『soar』編集長、「HaTiDORi」代表、ダンサー。青森県生まれ、元日本赤十字社職員。青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。

soar(ソア)

障害や難病、LGBT、貧困、格差の中の子どもなど「社会的マイノリティ」の人々が持つ可能性が広がる瞬間を捉えるメディア。http://soar-world.com/

soar
「社会的マイノリティ」という言葉と丁寧に向き合おうとする工藤

かわいそうな出来事には出会ったけど、「かわいそうな人」に出会ったわけじゃない

木山

わたしがJENという団体で人道支援に関わってきて思うのは、かわいそうな出来事に遭った人には出会ったけど、「かわいそうな人」に出会ったわけじゃない。なのに、かわいそうだから「何かしてあげなくちゃ」っていうやり方が多くて、結果としてその人たちの力を奪ってるっていうことを、すごく感じてたんですよね。

緊急事態のときに食糧とか水とかが一時的に必要な時期は短い時間あるんですけど、それすら個人差があるし、本人たちがどうしていきたいのかを引き出すことが大事だと思って自立支援をやってきました。ですから、soarが明るく自立支援をしているところに、大いに賛同します。

工藤

soarで取り上げる方々は「社会的マイノリティ」っていうすごいふわっとした言葉でくくられますけど、自分の中にみんな可能性やエネルギーを何かしら持って生まれてきているのに、内的な理由とか外的な要因とか、そういうことで力を発揮できないっていう人たちが「マイノリティ」って呼ばれてしまっていますよね。

木山啓子

大学卒業後、5年間の企業勤務を経てニューヨーク州立大学大学院へ留学。1994年、JENの創設に参加。紛争中の旧ユーゴスラビア地域代表として難民・避難民支援活動に従事。緊急支援が依存を生むことに着目し、24に及ぶ国と地域で緊急自立支援活動を展開。

JEN

紛争や自然災害により厳しい状況にある人びとへ「生きる力、を支えていく」をモットーに、緊急から復興の各段階できめ細やかな支援活動を行う国際NGO。http://www.jen-npo.org/

JEN
soarに込められた思いを受けとめようとする木山

工藤

統合失調症になってしまった身内の話に戻ると、わたしにも本当はもっとできたこともあるんじゃないかなと思っていて、それで情報をいろいろ探していたときに、「べてるの家」っていう北海道にある施設にたどり着いたんです。ここはすごい田舎にあるんですけど、精神障害の分野ではすごく先進的なことをしているんです。

いままで統合失調症やうつ病になった人って「休んでていいよ」って言われるのが普通で、自分が頑張るとか挑戦するっていうことを奪われてきたっていう側面もあると思うんです。でもここでは、一緒に暮らしながら自分たちでビジネスを起こしたり、自分の病気を研究して発表したり、「幻覚&妄想大会」なんていう自分が見た幻覚や妄想を発表するお祭りがあったり。

この大会では、出場したひとたちは病気を抱えながらも、とてもいい笑顔をしていました。それを見て、「病気って治らなくても、人とつながったり何かにチャレンジすることで幸せになれるんだ」と感じたんです。

木山

病気が治ってなくても幸せって、興味深いですね。病気って、何をもって病気と決められるんでしょう。

べてるの家

社会福祉法人浦河べてるの家。1984年に設立された北海道浦河町にある、精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点。2002年に法人化、小規模授産施設2箇所、共同住居12箇所、グループホーム3箇所を運営。そこで暮らす当事者達にとっては、生活共同体、働く場としての共同体、ケアの共同体という3つの性格を有している。
http://bethel-net.jp/

インターネットが新しい「安全」を提供している

工藤

soarを始めてみて気づいたのは、現実世界ではなかなか自分が病気だと公表するのが難しい人が、インターネットだったら抱えてる悩みや苦しさを共有できるということですね。

木山

わたしも「これを待ってました!」という気持ちになりました。これを読んだ人が、「自分もやってみようって思っていいんだ」って、すごく励まされると思います。多様性のある社会をどうやって生きていくかって考えたときに、こういう取り組みはすごく元気が出る。

いまはどれぐらいの閲覧があるんですか?

工藤

1年間やってみて、記事の公開本数は月に7、8本程度、だいたい月間で5万から10万アクセスですね。取り上げる分野によってかなり違います。

木山

1年で、すごいですね。

工藤

他のNPOの活動って現場や対人でのやり取りが大事なことも多いと思うんですけども、わたしたちの場合は「インターネット」がカギなんじゃないかと思っています。

困難を抱えてる人って、電話で相談することもいやだったりする人も少なくないんですよね。現実では同じ病気とか障害とかで悩んでる人には会えないけど、インターネットで探してつながってる人も多いようです。

実際に情報発信してみると、一方的な発信にとどまらない効果がいろいろあると感じています。受け取った読者が自分の中で噛み砕いて、そこから自分の生きる知恵とかにしてくださるっていうことが起きています。

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廣畑七絵

廣畑七絵

高知県出身。ノンフィクションライター。取材対象はご近所から海外まで。国際協力関係機関職員を経て、出産を機にライターに転身。大学時代に文化人類学を学び、フィールドワークを手法としたライティング、取材を得意とする。女子サッカーをたしなみ、学生寮の寮母もこなす。

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